番外② 第31回外傷学会後
さて外傷学会も終わり、明日から通常業務再開です。滞在時間も少なめでしたが有意義でした。
国手たちの口演も勉強になりましたが、ポスター発表も多く「おっ!」というダイヤの原石的なものも多くありました。
1)膵損傷における主膵管再建やLetton&Willson変法
2)外傷外科医の教育(ACSの教育)、症例集約化、外傷センター要件
3)JTDBからの検討
4)REBOAの有用性(prehospital REBOAも含めて)
5)肝後面肝静脈損傷のREBOCの可能性
6)鏡視下手術の適応と可能性と限界
まだいろいろありましたが、イメージに残り易かったのは上記です。
検討→発表→意見いただく+ほかの発表を聞く→アイデアを出す(以下ループ)
当然と言えば当然ですが、学会は最新の知見をいただく場所であると同時にアイデアがよくでてくる時間です。
院内PHSとかにどんどん連絡がこないから?
アイデアの優先度を決定し明日からまた臨床+研究(+改善)+教育。
最も学会の良い点はやる気を注入されることでしょうか?
多発外傷⑧ DCS 『戦略の集合体』
【前回までのまとめ】
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得
⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要
⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。
『不確実な』出血の可能性を常に考慮。
外傷死の三徴の理解と認識、そしてDCR
最近、医学用語の略語が多くカンファレンスでもつらいときがありますが、『ACS』の略語の一番手がAcute care surgeryになるといいななどと考えていますが皆さんどうでしょうか?(打倒心臓?)
さて、今回はDamage control surgery(DCS)についてです。
前回からの話の流れをおさらいします。
外傷死の三徴があれば(1つでもあれば適応とする施設もあります)、Damage control resuscitation(Damage control surgery, Pemissive hypotension, Hemostatic resuscitaion)の一環である手術戦略としてのDamage control surgeryを適応します。
Damage control surgeryの概略は、初回手術で時間をかけず(60-90分程度)、出血と汚染のコントロールを第一目標とし、生理学的異常の破たんを食い止める手術のみを行い、一旦集中治療を行い、2回目以降の手術で根治的手術を行うことと理解しています。
いくつか例を挙げますと
重度肝損傷において解剖学的切除などは避け、ガーゼパッキング(±TAE)のみ
重度膵頭部十二指腸損傷においてPDは避け、切除もしくはドレナージのみ
腸管損傷において吻合は避け、ステープラによる切除のみ
骨盤骨折における後腹膜ガーゼパッキング
などがあります。
また他に
血管損傷時にその血管を結紮してよいか?
脾損傷時に特に若年者でなければ脾摘をした方が確実で早ければ脾摘を選択する時も。
肝損傷において小範囲で被膜のみつながっている状況などでは肝切除
などひとえにDamage control surgeryと言っても多彩で細かく各論があります。
加えて腹壁(胸壁)も手術時間短縮のためやAbdiminal compartment syndrome回避のために簡易閉腹やOpen Abdominal Management(OAM)を行うこともDamage control surgeryに含まれています。
Damage controrl surgeryはDC1、DC2、DC3と時間的経過で分類されます。
DC1:Abbribiated surgery(蘇生的手術)
⇓
DC2:Critical care(集中治療)
⇓
DC3:planned reoperation(計画的根治手術)
Acute care surgery領域においては非外傷性疾患におきましても、例えば状態の悪い大腸穿孔性腹膜炎に対するハルトマンや人工肛門のみ、NOMIに対して切除のみ(吻合なし)+OAMを行ったりしますので、外傷においても急性腹症においても戦略として通ずる時もあると考えます。
いずれにせよ、適応をよく理解し(微妙であり決断せざるを得ない時もありますが)、適切なAbbribiated surgery(DC1:蘇生的手術)を行い(逆に不適切なパッキングや動脈出血に対する不適切な対応、不必要なOAMなどを避ける)、集中治療を行い(DC2)、2回目以降の計画的根治手術(DC3)にもっていきます。特にガーゼパッキングなどの異物を用いた場合は一般的に72時間以内のDC3を行うべきとの意見もあります。
一方再建術は状態や術式によっては数週間後や数か月後に行われることもあります。
またDC2時期において判断しなければならないのが、持続する出血に対して輸血などを含めた非侵襲的集中治療のみで100%対応できない症例もあり、DC3ではなくDC2に2回目の緊急手術や追加TAEのタイミングを失うようなことがあってもなりません。
今回はDCSの総論・一部について考えてみました。
もちろん多発外傷のなかでもDCSの適応となる症例は少ないですが(非常に少ない?)、上記のようなコンセプトのないまま、「何をすればよいかわからず慌ててしまう」「時間だけがだらだら経過する」「誤った戦略を指摘する人が一人もいない」などの良くない流れになる事だけは避けたいですね。
【まとめ】
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得
⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要
⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。
『不確実な』出血の可能性を常に考慮。
外傷死の三徴の理解と認識、そしてDCR
DCSは適応・戦略・集中治療など時間的経過を含む戦略の集合体
*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。
多発外傷⑦ 負のスパイラルと『ダメコン』
【前回までのまとめ】
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得
⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要
⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。
『不確実な』出血の可能性を常に考慮。
さて今回も多発外傷患者にどう対応するべきか?を考えていきます。
Primary surveyにおけるABCDEアプローチが基盤をなし、「生理学的異常の認識」を適切迅速に行い、「蘇生」・「出血のコントロール」と行っていくのは繰り返し修練していく必要があるのはやはり大前提です。
「認識」⇒「蘇生」「コントロール」。
そして上記同様に重要であるのが、「負のスパイラルからの脱却」です。
低体温、代謝性アシドーシス、凝固異常:外傷死の三徴です。
今目の前にある出血性ショック症例において
・体温<35℃
・pH<7.2, BE<-15mmol/l(55歳未満), BE<-6mmol/l(55歳以上), 乳酸値>5mmol/l
・PT or APTT <正常の50%
が一つでもあればダメージコントロール戦略(damage control strategy: DCR)の適応を考慮するべきだと考えられています。
BEで使用される55歳という年齢は外科的予後予測ではあまり使用しない年齢値ですが、外傷スコアで最も汎用されるTriss Psにおける年齢のカットオフ値が55歳ですので、外傷を生業にしている者からすれば馴染み深い年齢カットオフです。
「外傷採血セット?」「多発外傷採血セット?」「重症外傷採血セット」は血液ガス、乳酸、凝固(もちろんフィブリノーゲン、FDP、Dダイマー、ATIII。加えてTAT、PIC?)も含めた構成にすべきです。
また重要なのは、上記は時間経過で何度も評価するべきで(FASTみたいに)、強調すべきは数値のみで判断すべきではなく視診/触診/手術中の所見で今目の前の患者様が負のスパイラルに陥っていないかを判断・共有することです。
DCR(damage control strategy)は
・Damage control surgery(蘇生的手術⇒集中治療管理⇒計画的再手術)
・Permissive hypotention(目的をもった輸液制限)
・Hemostatic resuscitation(血液成分補充+トラネキサム酸)
「Damage control 」、略して「ダメコン」などと言われる場合がありますが、総論である「Damage control strategy」の事なのか、各論である「Damage control surgery」なのか混同して使用していてわかりにくいときもありますので少しだけ注意です。(言いたいことは伝わってきますが)
ちなみにダメージコントロールは、物理的な攻撃・衝撃を受けた際に、そのダメージや被害を必要最小限に留める事後処置の事です。傷んだ髪の毛のケア、野球の負け試合で重要なセットアッパーにを使わないとか、企業における戦略の一つなど各方面で使用されていますが、発祥は戦艦におけるダメージコントロールとのことです(各学会や著書でもよくでてきます)。
でもこの中でAcute care surgeonとして理解・実践できるようにと気になるのはやはりDamage control surgeryですよね?簡単に言えば『手術は終了したが患者様も亡くなった』というよく使われる表現がありますが、そうならないようにという事です。
が、実際にその中の適応や各論は考えているよりも細かく簡単ではないです。
次回もDamage control resuscitation、特にDamage control surgeryについて続けていこうと思います。
【前回までのまとめ】
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得
⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要
⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。
『不確実な』出血の可能性を常に考慮。
外傷死の三徴の理解と認識、そしてDCR
*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。
多発外傷⑥ 出血部位と『不確実性』
【前回までのまとめ】
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得
⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要
⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。
前回に引き続き、Cの異常の中の出血性ショックにまつわる私見を交えた意見です。
受傷機転、損傷部位、身体診察を前提に
①体表面から見える出血、長管骨の骨折による出血
②FASTで確認できる出血 (胸腔内出血、腹腔内出血)
③ポータブル胸部レントゲンで確認できる出血(胸腔内出血)
④ポータブル胸部レントゲンで推定できる出血(縦隔内出血)
⑤ポータブル骨盤レントゲンで推定できる出血(ex骨盤骨折:後腹膜出血)
⑥上記で確認が困難な出血:初期の心大血管損傷、高位後腹膜出血など
多発外傷においては他のショックが複合的に起こっている可能性もあるが、ショックの場合は最大の原因である出血性ショックがあると考えて蘇生を行います。
⑥の出血、特に高位後腹膜出血は「第4の出血」と言われ、CT撮影ができないようなpre CPAやnon responder症例では戦略に難渋する事もあります。
対応の一つとして高位後腹膜パッキングなども戦略の一つだと思います。
上記①~⑥の確実な把握と不確実な把握「推定」を交えて
A,Bを安定させ、同時に静脈路確保、輸血、トランサミン、IABO、ERT、ERL、TAE、他止血術等を駆使して出血をコントロールしていきます。
そして上記を行う事で重要な戦略がDamage control strategyです。
【まとめ】
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得
⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要
⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。
『不確実な』出血の可能性を常に考慮。
以上、次回に続きます。
*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。
多発外傷⑤ 出血と『準備』
●多発外傷の定義は
『6身体部位(頭頸部、顔面、胸部、腹部・骨盤内臓器、四肢・骨盤)のうち
AIS(Abbrebiated injury score)3点以上の部位が2か所以上』でした。
●これまでのまとめは
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得
⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要
今回はC:Circulationの異常で最も多い
出血性ショックについて考えていきたいと思います。
特に『準備』が大事です。
「人」、「物」、「場所」の『準備』が病着前に終了していないと適切な外傷治療(多発外傷治療)は不可能であることを理解する必要があります。
例を挙げると
「人」:外傷専門医、外傷外科医、麻酔科医、脳外科医、整形外科医など
「物」:緊急輸血、IABO、レベルI、ER緊急開腹開胸セット
「場所」:救急初療室、手術室、血管造影室、集中治療室
などです。
例えば交通事故後5-10分で搬入となる時もありますので、
救急隊の連絡を受けてから「場所がない」、「人手が足りない」などの判断では
遅く多方面に所謂迷惑がかかります。
よって搬入依頼callがないときでも病院としてのハード/ソフトはどの程度のものなのかを救急初療室リーダーなどが常に把握しておく必要があるという事です。
搬入してから判断することは時に「たらい回し」よりは良いですが、最も良い対応ではないということを肝に銘じておく必要があります。
【まとめ】
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得
⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要
⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。
次回に続きます。
*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。
多発外傷④ 緊張性気胸と『躊躇』
【前回までのまとめ】
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
さて今回はABCDEアプローチの「B:Breathing」です。
Flail Chest, Tension pneumothorax, Open pneumothorax, Massive hemothorax
上記4つ。いずれも厄介であり循環への影響もあり確実・迅速な対応が必要です。
特にTension pneumothoraxは「身体所見で判断すべきであり、胸部レントゲンを待つことで治療が遅れることがあってはならない」とされており、気道緊急同様に特にタイムプレッシャーがかかっています。
緊張性気胸の身体所見。
呼吸不全+循環不全(ショック)、胸郭膨隆、頸静脈怒張、両側腋窩部位聴診による呼吸音減弱・消失、打診鼓音、触診で皮下気腫、他気管偏位。
ただ多発外傷の現場では、時に正確な身体所見がとりずらい…。
そして以下のような複合的な上級編?な症例も存在する
「緊張性気胸(呼吸不全(B)+閉塞性ショック(C)」ではなく(だけではなく)
●「通常の気胸+出血性ショック」 ex 血胸、後腹膜など
●「通常の気胸+高度肺挫傷による致死的呼吸不全からのショック」
●「通常の気胸+神経原性ショック」ex致死的頭部外傷
しかしながら上記複合的致死的の各診断は蘇生におけるABの段階では明確にならないことが多い。こういった類のジレンマは緊張性気胸問題にかぎらず多発外傷ではありうる。上記ジレンマの解消には一つしかなく、
『疑ったら躊躇せずに胸腔ドレナージ(穿刺)』。
優れた救急医、外科医、Acute care surgeonであれば
胸腔ドレーン挿入までの時間は30秒もかからない。
そもそもTension pneumothorax であれば鉗子で胸腔を開放させるまでの時間が重要であるので15秒程度(穿刺ならもっと早いが)。
ただし気道確保(A)やfluid resuscitatoin(初期輸液療法)、時には緊急O型輸血などでもショックバイタルが立ち上がる可能性があり、緊張性気胸の証拠としてのレントゲンは残っていてはおかしい(レントゲン前に処置する必要あるから)ので、実際本当の意味での答え合わせはできない時も多いと思います。
「緊張性気胸だったかなあ」という時もあるのではないでしょうか?
多発外傷の患者様を目の前にして、バイタル異常があり、広範囲皮下気腫、胸郭動揺を見て触った時点で(もしくは病院前情報)、それが緊張性気胸の確診を得られずとも胸腔ドレーンを入れない外傷医はいないのではないでしょうか?
Acute care surgeonがいつも胸腔ドレーンを入れる必要はありませんが、その後大量血胸であればそのまま側方開胸やクラムシェル切開開胸などに移行する場合もあります。胸腔ドレーン⇒開胸の流れも常に準備。
【まとめ】
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得
⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要