目指せ!Acute care surgeon

Acute care surgeryにまつわる私見を交えたお話(いつでもご意見/御指導コメントください)

多発外傷⑪-1 開胸を予想して胸腔ドレナージ

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得 (ACSとして何ができるか?)

③頭部外傷(二次性脳損傷予防)

④四肢外傷(PTD+PTD、四肢コンパートメント)

 

今回は胸部外傷です。

良く遭遇するのは肋骨骨折、肺挫傷・血胸、気胸でしょうか。

Surgical skillとしてはACS以外でも瞬時に可能な胸腔穿刺/ドレナージがまず必要です。

何故なら閉塞性ショックとしての『緊張性気胸』(+『心タンポナーデ』)があるからです。他内因性疾患にも範囲を広げると緊張性胸水/緊張性血胸/縦隔気腫なども閉塞性ショックの原因となりうると考えます。

 

すぐ閉塞する可能性があるから28Frもしくは32Frの胸腔ドレーンを使用。ただしそれでも閉塞する可能性を念頭に置く必要があります。

 

一旦脱気してさらに開胸や開腹などが継続して必要であれば固定は幅の広いテープにとどめて置き連続する評価、手技に移行してもよいと考えます。針糸による固定術は割愛(実際術者の好みがあり、数人に教わると細かいこだわりは異なるような気がしています)。

 

また胸腔ドレナージにおいてドレナージされるものは、空気と出血のみではありません。胸腔穿破型食道損傷、消化管穿孔+横隔膜損傷では消化液や食残がドレナージされてくる場合もあります。

 

胸腔ドレナージに話を戻します。ACSであればそのまま側方開胸やクラムシェル開胸まで想定しての手技を行うべきです。

preCPAで両側胸部外傷が疑われるときは左側方開胸と同時に右胸腔ドレーン⇒クラムシェルという流れでもよいかと思われます。左側方開胸から30秒以内に可能なのは、①開胸心マ②下行大動脈クランプ(左下肺靭帯切除必要となる症例も)③心タンポナーデの解除④圧迫止血であり、胸骨を横断してから右開胸まで連続させるのは30秒以内では困難かと思います。

最初からクラムシェルを想定してACSが2名以上いれば両側方開胸からの後の連続でもよいかと思います。

今回は本来なら胸腔ドレーンについてですが、開胸と強く結びついており緊張性気胸を疑わない症例で体幹部出血によるpreCPAであれば胸腔ドレナージよりもACS側方開胸の方がスピードや確実性において有効な場面があると考えます。

 

【まとめ】

胸部外傷:まずは胸腔ドレーン習得、開胸を意識しているか。

以上、次回に続きます。

*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。

 

多発外傷⑩ 四肢外傷:PTDからPTD

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得 (ACSとして何ができるか?)

ACSと頭部外傷(今後もっと考えます)

 

 今回は四肢外傷治療について考えていきます。

 

Primary surveyと蘇生の面からはやはり「止血」です。

切断肢・長管骨多発骨折や大きな主要血管からの出血にまずはACSは対応します。

しかしながら外傷診療はPreventable trauma death(PTD)に加えて、Preventable trauma disability(PTD)へ、つまり「救命」に加えて次に「機能障害の回避の重要性」が強調されています。

 

《primary survey / 蘇生》→止血

・圧迫、空気止血帯(病院前のDr carやヘリで使用することも)

・PTDを意識した多発外傷診療(迅速性、的確性)

 

止血以外でACSが意識することは、脂肪塞栓の可能性、Crush syndromeの可能性、コンパートメント症候群の判断です。

特にCrush syndromeは時には病院前診療での判断も求められ狭圧外傷→解除による再灌流障害→高K血症となり致死的となる。

 

またACSでは初療から外科的集中治療も行いますので、多発外傷症例において集中治療室での突然の呼吸循環不全は脂肪塞栓の可能性を、また腹部だけではなく四肢コンパートメント症候群の早期発見・コンサルティングは夜間休日においても重要です。

 

個人的には、

意識障害/鎮静下の四肢コンパートメント症候群をいかに対応するか?」

ACS単独の判断で筋膜切開をしたり、+NPWTを行ったりする頻度は低いので、

筋区画内圧測定を繰り返し行いつつコンサルトし方針を決定するのが現実的な対応ではないかと考えます。

 

【まとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得 (ACSとして何ができるか?)

ACSと頭部外傷

ACSと四肢外傷(PTD+PTD、四肢コンパートメント)

以上、次回に続きます。

*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。

多発外傷⑨ ACSの頭を悩ませる重症頭部外傷

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得

 ⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす

 ⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要 

 ⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。

       『不確実な』出血の可能性を常に考慮。

  外傷死の三徴の理解と認識、そしてDCR

  DCSは適応・戦略・集中治療など時間的経過を含む戦略の集合体 

 

 今回は多発外傷に伴う頭部外傷についてです。まず基本中の基本

①二次性脳損傷(低酸素血症や循環不全による)の予防

Air way, Breathing, CirculationがあくまでD(Dysfunction of CNS)の異常よりも優先

③切迫するDの把握

GCS8点以下

脳ヘルニア徴候を伴う意識レベルの低下

(GCS2点以下の低下、瞳孔不同、片麻痺、Cushing現象)

 

 ACSとして頭部外傷へのアプローチはもちろん、ABC同様、Survey(把握)から始まります、特に切迫するDのSurvey(評価、把握)ができることが基本となります。

 Acute care surgeonが行うことは更に二次的脳損傷の予防(頭蓋内因子ではなく、ABCの安定化による頭蓋外因子の除去)です。つまりABCにおける蘇生を行うことがほとんどの役割を占めています。加えていうならば同時並行での適切なコンサルトです。

 

 「ACSの頭を悩ませるケース」としては、特に高エネルギーの多発外傷でのショック患者様において時々見られます。

 見た目から明らかに頭部外傷はあるが致死的頭部外傷かわからない場合に、ABCアプローチで血圧40台程度、あきらかな出血はない(閉塞性ショック除外、FAST陰性、レントゲン問題なし)、初期輸液療法、緊急輸血も行った、ただし高位後腹膜出血などがあるかもしれない…。

それでもREBOA?ERT?頭部CTでの評価がしたいところですが…?

ERでCTなしで穿頭などは最近行われていないようです。

 

【今回のポイント】

ACSとして頭部外傷にどう貢献できるか?

閉塞性ショック、出血性ショックがない(すべては除外できない)、重症頭部外傷を疑うときにCTに行くべきか?

次回に続きます

*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。

番外② 第31回外傷学会後

 さて外傷学会も終わり、明日から通常業務再開です。滞在時間も少なめでしたが有意義でした。

国手たちの口演も勉強になりましたが、ポスター発表も多く「おっ!」というダイヤの原石的なものも多くありました。

 

1)膵損傷における主膵管再建やLetton&Willson変法

2)外傷外科医の教育(ACSの教育)、症例集約化、外傷センター要件

3)JTDBからの検討

4)REBOAの有用性(prehospital REBOAも含めて)

5)肝後面肝静脈損傷のREBOCの可能性

6)鏡視下手術の適応と可能性と限界

まだいろいろありましたが、イメージに残り易かったのは上記です。

検討→発表→意見いただく+ほかの発表を聞く→アイデアを出す(以下ループ)

当然と言えば当然ですが、学会は最新の知見をいただく場所であると同時にアイデアがよくでてくる時間です。

院内PHSとかにどんどん連絡がこないから?

イデアの優先度を決定し明日からまた臨床+研究(+改善)+教育。

最も学会の良い点はやる気を注入されることでしょうか?

番外①:第31回外傷学会

 明日から横浜で外傷学会ですね。

 

 Acute care surgeonとして?、外科系学会に加えて、

Acute care surgery学会、救急学会、外傷学会への発表や参加を可能な限り…。

 

 多発外傷についての私見を記していますが(忘備録の面が強いですが)、

今後は、頭頸部、顔面、四肢外傷の重症外傷(AIS≧3)が多発したときにACSとして

何を考えて何ができるのかといった領域の個人的考察も加えていこうと思います。

 

 少しでも新しい知見、アイデアを持って帰ろうと思います。

多発外傷⑧ DCS 『戦略の集合体』

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得

 ⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす

 ⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要 

 ⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。

       『不確実な』出血の可能性を常に考慮。

  外傷死の三徴の理解と認識、そしてDCR

 

最近、医学用語の略語が多くカンファレンスでもつらいときがありますが、『ACS』の略語の一番手がAcute care surgeryになるといいななどと考えていますが皆さんどうでしょうか?(打倒心臓?)

 

さて、今回はDamage control surgery(DCS)についてです。

前回からの話の流れをおさらいします。

外傷死の三徴があれば(1つでもあれば適応とする施設もあります)、Damage control resuscitation(Damage control surgery, Pemissive hypotension, Hemostatic resuscitaion)の一環である手術戦略としてのDamage control surgeryを適応します。

Damage control surgeryの概略は、初回手術で時間をかけず(60-90分程度)、出血と汚染のコントロールを第一目標とし、生理学的異常の破たんを食い止める手術のみを行い、一旦集中治療を行い、2回目以降の手術で根治的手術を行うことと理解しています。

いくつか例を挙げますと

重度肝損傷において解剖学的切除などは避け、ガーゼパッキング(±TAE)のみ

重度膵頭部十二指腸損傷においてPDは避け、切除もしくはドレナージのみ

腸管損傷において吻合は避け、ステープラによる切除のみ

骨盤骨折における後腹膜ガーゼパッキング

などがあります。

また他に

血管損傷時にその血管を結紮してよいか?

脾損傷時に特に若年者でなければ脾摘をした方が確実で早ければ脾摘を選択する時も。

肝損傷において小範囲で被膜のみつながっている状況などでは肝切除

などひとえにDamage control surgeryと言っても多彩で細かく各論があります。

加えて腹壁(胸壁)も手術時間短縮のためやAbdiminal compartment syndrome回避のために簡易閉腹やOpen Abdominal Management(OAM)を行うこともDamage control surgeryに含まれています。

 

Damage controrl surgeryはDC1、DC2、DC3と時間的経過で分類されます。

DC1:Abbribiated surgery(蘇生的手術)

DC2:Critical care(集中治療)

DC3:planned reoperation(計画的根治手術)

 

Acute care surgery領域においては非外傷性疾患におきましても、例えば状態の悪い大腸穿孔性腹膜炎に対するハルトマンや人工肛門のみ、NOMIに対して切除のみ(吻合なし)+OAMを行ったりしますので、外傷においても急性腹症においても戦略として通ずる時もあると考えます。

いずれにせよ、適応をよく理解し(微妙であり決断せざるを得ない時もありますが)、適切なAbbribiated surgery(DC1:蘇生的手術)を行い(逆に不適切なパッキングや動脈出血に対する不適切な対応、不必要なOAMなどを避ける)、集中治療を行い(DC2)、2回目以降の計画的根治手術(DC3)にもっていきます。特にガーゼパッキングなどの異物を用いた場合は一般的に72時間以内のDC3を行うべきとの意見もあります。

一方再建術は状態や術式によっては数週間後や数か月後に行われることもあります。

またDC2時期において判断しなければならないのが、持続する出血に対して輸血などを含めた非侵襲的集中治療のみで100%対応できない症例もあり、DC3ではなくDC2に2回目の緊急手術や追加TAEのタイミングを失うようなことがあってもなりません。

 

今回はDCSの総論・一部について考えてみました。

もちろん多発外傷のなかでもDCSの適応となる症例は少ないですが(非常に少ない?)、上記のようなコンセプトのないまま、「何をすればよいかわからず慌ててしまう」「時間だけがだらだら経過する」「誤った戦略を指摘する人が一人もいない」などの良くない流れになる事だけは避けたいですね。

【まとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得

 ⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす

 ⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要 

 ⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。

       『不確実な』出血の可能性を常に考慮。

  外傷死の三徴の理解と認識、そしてDCR

  DCSは適応・戦略・集中治療など時間的経過を含む戦略の集合体 

 *上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。

多発外傷⑦ 負のスパイラルと『ダメコン』

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得

 ⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす

 ⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要 

 ⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。

       『不確実な』出血の可能性を常に考慮。

さて今回も多発外傷患者にどう対応するべきか?を考えていきます。

Primary surveyにおけるABCDEアプローチが基盤をなし、「生理学的異常の認識」を適切迅速に行い、「蘇生」・「出血のコントロール」と行っていくのは繰り返し修練していく必要があるのはやはり大前提です。

 

「認識」⇒「蘇生」「コントロール」。

 

そして上記同様に重要であるのが、「負のスパイラルからの脱却」です。

低体温、代謝性アシドーシス、凝固異常:外傷死の三徴です。

今目の前にある出血性ショック症例において

・体温<35℃

・pH<7.2, BE<-15mmol/l(55歳未満), BE<-6mmol/l(55歳以上), 乳酸値>5mmol/l

・PT or APTT <正常の50%

が一つでもあればダメージコントロール戦略(damage control strategy: DCR)の適応を考慮するべきだと考えられています。

BEで使用される55歳という年齢は外科的予後予測ではあまり使用しない年齢値ですが、外傷スコアで最も汎用されるTriss Psにおける年齢のカットオフ値が55歳ですので、外傷を生業にしている者からすれば馴染み深い年齢カットオフです。

「外傷採血セット?」「多発外傷採血セット?」「重症外傷採血セット」は血液ガス、乳酸、凝固(もちろんフィブリノーゲン、FDP、Dダイマー、ATIII。加えてTAT、PIC?)も含めた構成にすべきです。

また重要なのは、上記は時間経過で何度も評価するべきで(FASTみたいに)、強調すべきは数値のみで判断すべきではなく視診/触診/手術中の所見で今目の前の患者様が負のスパイラルに陥っていないかを判断・共有することです。

 

DCR(damage control strategy)は

・Damage control surgery(蘇生的手術⇒集中治療管理⇒計画的再手術)

・Permissive hypotention(目的をもった輸液制限)

・Hemostatic resuscitation(血液成分補充+トラネキサム酸)

 

「Damage control 」、略して「ダメコン」などと言われる場合がありますが、総論である「Damage control strategy」の事なのか、各論である「Damage control surgery」なのか混同して使用していてわかりにくいときもありますので少しだけ注意です。(言いたいことは伝わってきますが)

 

ちなみにダメージコントロールは、物理的な攻撃・衝撃を受けた際に、そのダメージや被害を必要最小限に留める事後処置の事です。傷んだ髪の毛のケア、野球の負け試合で重要なセットアッパーにを使わないとか、企業における戦略の一つなど各方面で使用されていますが、発祥は戦艦におけるダメージコントロールとのことです(各学会や著書でもよくでてきます)。

 

でもこの中でAcute care surgeonとして理解・実践できるようにと気になるのはやはりDamage control surgeryですよね?簡単に言えば『手術は終了したが患者様も亡くなった』というよく使われる表現がありますが、そうならないようにという事です。

が、実際にその中の適応や各論は考えているよりも細かく簡単ではないです。

次回もDamage control resuscitation、特にDamage control surgeryについて続けていこうと思います。

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得

 ⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす

 ⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要 

 ⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。

       『不確実な』出血の可能性を常に考慮。

  外傷死の三徴の理解と認識、そしてDCR

 *上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。