目指せ!Acute care surgeon

Acute care surgeryにまつわる私見を交えたお話(いつでもご意見/御指導コメントください)

多発外傷⑪-3 外傷CPAの開胸ジレンマ

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得(ACSとして何ができるか?)

③頭部外傷(二次性脳損傷予防)

④四肢外傷(PTD+PTD、四肢コンパートメント)

⑤胸部外傷:胸腔ドレナージから開胸、蘇生的開胸のこだわり

 

今回は開胸の適応、特にCPAOAの開胸についての適応を考えていきます。

(重症ショックのEDTの話ではないです)

 

やはり最も有名な基準はFeliciano et alのTraumaに記載されている基準でしょうか?

2012年のWestern trauma associationのアルゴリズムでもCPAに対するEDTについては

変わらず下記のように記載されています。

 

まず『目撃者ありき』です。

その症例のなかで

✔ 胸部鋭的外傷:院外CPR15分以内

✔ 胸部以外鋭的外傷:院外CPR5分以内

✔ 鈍的外傷:院外CPR10分以内

とされています。

 

交通外傷や墜落/転落外傷において、目撃者ありCPA患者様で

『接触時CPAで搬入まで20分かかります』と言われた場合、

絶対emergency department thoracotomy(EDT)は行うべきではないのでしょうか?

 

本当に上記基準を完全順守することが良いかは小生は判断しかねます。

しかしながらunnesessary EDTが横行することも避けなければなりません。

上記基準を熟知しておいて、その上で施設基準を決めておくべきです。

更にOn-the-Job trainningも含めての話はここでは触れません。

 

若年者であれば…、PEAであれば…、Vf/VTであれば…、かつ重症頭部外傷がなければ15-20分程度院外CPRが施行され、目の前に搬入された鈍的外傷CPA患者様をなんとか救命したいと渇望するのはナンセンスとまではいかないのでは?と思います(お叱りを覚悟で)。

 

考え続けていきます。

フランスの哲学者パスカルの有名な言葉を思い出します。

「人間は考える葦である」

 

【今回のまとめ】

わが国で多いとされる鈍的外傷CPAのEDTの適応は「基本的には」目撃者がありかつ院外CPR10分以内

 *上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。お叱りなどあればいつでもコメントでご意見ください。

 

 

多発外傷⑪-2 蘇生的開胸の小さな?こだわり

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得(ACSとして何ができるか?)

③頭部外傷(二次性脳損傷予防)

④四肢外傷(PTD+PTD、四肢コンパートメント)

⑤胸部外傷:胸腔ドレナージから開胸

 

今回も胸部外傷について、特に開胸について考えていきます。

開胸の種類はさまざまありますが、

外傷の戦術としては

・左前側方開胸

・クラムシェル開胸

・胸骨正中切開 

・他Trap door、前側方開胸+後方開胸

が代表的な開胸方法と多くの書籍で紹介されています(ex ATOM 2nd edition )。

蘇生的開胸とすれば第一選択は左前側方開胸です。

スピードと下行大動脈クランプおよび心臓へのアプローチを考えるとやはり左前側方開胸だと思います。

消毒⇒メス⇒皮膚+皮下脂肪⇒肋間筋⇒壁側胸膜で開胸、開胸創(胸膜)を広げるのはクーパーで行っています。開胸器をかけ、助手が肺を圧排し(必要あれば下肺靭帯を切離し)、下行大動脈をクランプ(必要あれば心マ)。

 

国手の先生方もよく言われますが広背筋まで(後まで)行き過ぎると出血多くなります。また内胸動脈からも出血します(あらかじめ結紮?あとで確認?)。

 

上縦隔アプローチ必要症例が少ないので最近はクラムシェルの状態で上縦隔を確認する事が多いです。無名静脈のアプローチくらいまでは個人的にはいけるかと思います。大動脈弓分岐まで含めた細かいアプローチは厳しいと思います。

 

左前側方開胸でも左横隔神経に留意しつつ心膜開放は可能だと思いますが、心損傷などがあればクラムシェルに切り替えていく必要があると思いますので、この時点で胸骨を胸骨ノコで切開する必要があります。準備の段階で実は充電されていない状況などは論外だと心しています。

 

胸骨が薄い症例で待ちきれない時はクーパーなどで切断する場合もありますが、決してBest Choiceではなく、外科医としては手術器具を大事に扱う事は修練開始後すぐおしえられますよね。つまりクーパーが使えなくなる可能性が高いということです(骨とかをきると。)

 

心嚢を開放しチャンスのある心損傷(右房損傷など)があれば、用手圧迫、縫合(プレジェットも含め)、バルーン、スキンステープラなどで修復していきます。縫合糸などは術者/施設などでいくつかあらかじめ決めていたほうが良いかと思います。

最近オプションの一つとして3-0の針の直径が長い針糸も導入しました。

4-0,5-0,6-0の針の直径が長いものも決めていきたいと思います。特にここは賛否両論が強いところだと思います。糸が細くなるにつれて直径が長い針の選択が少なくなってきます。

 

ACSとしてどこまでできるようになる必要があるか。

なかなか難しいです。

しかしながら、多くの既存専門医資格も、すべての領域疾患を100点満点にこなさないといけないような資格はそもそもないので、いい意味である程度のレベルで線引きをするべきと考えます。

 

【まとめ】

蘇生的開胸の細かい手順と施設でのこだわりをもつ。

 

*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。お叱りなどあればいつでもコメントでご意見ください。

多発外傷⑪-1 開胸を予想して胸腔ドレナージ

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得 (ACSとして何ができるか?)

③頭部外傷(二次性脳損傷予防)

④四肢外傷(PTD+PTD、四肢コンパートメント)

 

今回は胸部外傷です。

良く遭遇するのは肋骨骨折、肺挫傷・血胸、気胸でしょうか。

Surgical skillとしてはACS以外でも瞬時に可能な胸腔穿刺/ドレナージがまず必要です。

何故なら閉塞性ショックとしての『緊張性気胸』(+『心タンポナーデ』)があるからです。他内因性疾患にも範囲を広げると緊張性胸水/緊張性血胸/縦隔気腫なども閉塞性ショックの原因となりうると考えます。

 

すぐ閉塞する可能性があるから28Frもしくは32Frの胸腔ドレーンを使用。ただしそれでも閉塞する可能性を念頭に置く必要があります。

 

一旦脱気してさらに開胸や開腹などが継続して必要であれば固定は幅の広いテープにとどめて置き連続する評価、手技に移行してもよいと考えます。針糸による固定術は割愛(実際術者の好みがあり、数人に教わると細かいこだわりは異なるような気がしています)。

 

また胸腔ドレナージにおいてドレナージされるものは、空気と出血のみではありません。胸腔穿破型食道損傷、消化管穿孔+横隔膜損傷では消化液や食残がドレナージされてくる場合もあります。

 

胸腔ドレナージに話を戻します。ACSであればそのまま側方開胸やクラムシェル開胸まで想定しての手技を行うべきです。

preCPAで両側胸部外傷が疑われるときは左側方開胸と同時に右胸腔ドレーン⇒クラムシェルという流れでもよいかと思われます。左側方開胸から30秒以内に可能なのは、①開胸心マ②下行大動脈クランプ(左下肺靭帯切除必要となる症例も)③心タンポナーデの解除④圧迫止血であり、胸骨を横断してから右開胸まで連続させるのは30秒以内では困難かと思います。

最初からクラムシェルを想定してACSが2名以上いれば両側方開胸からの後の連続でもよいかと思います。

今回は本来なら胸腔ドレーンについてですが、開胸と強く結びついており緊張性気胸を疑わない症例で体幹部出血によるpreCPAであれば胸腔ドレナージよりもACS側方開胸の方がスピードや確実性において有効な場面があると考えます。

 

【まとめ】

胸部外傷:まずは胸腔ドレーン習得、開胸を意識しているか。

以上、次回に続きます。

*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。

 

多発外傷⑩ 四肢外傷:PTDからPTD

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得 (ACSとして何ができるか?)

ACSと頭部外傷(今後もっと考えます)

 

 今回は四肢外傷治療について考えていきます。

 

Primary surveyと蘇生の面からはやはり「止血」です。

切断肢・長管骨多発骨折や大きな主要血管からの出血にまずはACSは対応します。

しかしながら外傷診療はPreventable trauma death(PTD)に加えて、Preventable trauma disability(PTD)へ、つまり「救命」に加えて次に「機能障害の回避の重要性」が強調されています。

 

《primary survey / 蘇生》→止血

・圧迫、空気止血帯(病院前のDr carやヘリで使用することも)

・PTDを意識した多発外傷診療(迅速性、的確性)

 

止血以外でACSが意識することは、脂肪塞栓の可能性、Crush syndromeの可能性、コンパートメント症候群の判断です。

特にCrush syndromeは時には病院前診療での判断も求められ狭圧外傷→解除による再灌流障害→高K血症となり致死的となる。

 

またACSでは初療から外科的集中治療も行いますので、多発外傷症例において集中治療室での突然の呼吸循環不全は脂肪塞栓の可能性を、また腹部だけではなく四肢コンパートメント症候群の早期発見・コンサルティングは夜間休日においても重要です。

 

個人的には、

意識障害/鎮静下の四肢コンパートメント症候群をいかに対応するか?」

ACS単独の判断で筋膜切開をしたり、+NPWTを行ったりする頻度は低いので、

筋区画内圧測定を繰り返し行いつつコンサルトし方針を決定するのが現実的な対応ではないかと考えます。

 

【まとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得 (ACSとして何ができるか?)

ACSと頭部外傷

ACSと四肢外傷(PTD+PTD、四肢コンパートメント)

以上、次回に続きます。

*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。

多発外傷⑨ ACSの頭を悩ませる重症頭部外傷

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得

 ⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす

 ⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要 

 ⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。

       『不確実な』出血の可能性を常に考慮。

  外傷死の三徴の理解と認識、そしてDCR

  DCSは適応・戦略・集中治療など時間的経過を含む戦略の集合体 

 

 今回は多発外傷に伴う頭部外傷についてです。まず基本中の基本

①二次性脳損傷(低酸素血症や循環不全による)の予防

Air way, Breathing, CirculationがあくまでD(Dysfunction of CNS)の異常よりも優先

③切迫するDの把握

GCS8点以下

脳ヘルニア徴候を伴う意識レベルの低下

(GCS2点以下の低下、瞳孔不同、片麻痺、Cushing現象)

 

 ACSとして頭部外傷へのアプローチはもちろん、ABC同様、Survey(把握)から始まります、特に切迫するDのSurvey(評価、把握)ができることが基本となります。

 Acute care surgeonが行うことは更に二次的脳損傷の予防(頭蓋内因子ではなく、ABCの安定化による頭蓋外因子の除去)です。つまりABCにおける蘇生を行うことがほとんどの役割を占めています。加えていうならば同時並行での適切なコンサルトです。

 

 「ACSの頭を悩ませるケース」としては、特に高エネルギーの多発外傷でのショック患者様において時々見られます。

 見た目から明らかに頭部外傷はあるが致死的頭部外傷かわからない場合に、ABCアプローチで血圧40台程度、あきらかな出血はない(閉塞性ショック除外、FAST陰性、レントゲン問題なし)、初期輸液療法、緊急輸血も行った、ただし高位後腹膜出血などがあるかもしれない…。

それでもREBOA?ERT?頭部CTでの評価がしたいところですが…?

ERでCTなしで穿頭などは最近行われていないようです。

 

【今回のポイント】

ACSとして頭部外傷にどう貢献できるか?

閉塞性ショック、出血性ショックがない(すべては除外できない)、重症頭部外傷を疑うときにCTに行くべきか?

次回に続きます

*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。

番外② 第31回外傷学会後

 さて外傷学会も終わり、明日から通常業務再開です。滞在時間も少なめでしたが有意義でした。

国手たちの口演も勉強になりましたが、ポスター発表も多く「おっ!」というダイヤの原石的なものも多くありました。

 

1)膵損傷における主膵管再建やLetton&Willson変法

2)外傷外科医の教育(ACSの教育)、症例集約化、外傷センター要件

3)JTDBからの検討

4)REBOAの有用性(prehospital REBOAも含めて)

5)肝後面肝静脈損傷のREBOCの可能性

6)鏡視下手術の適応と可能性と限界

まだいろいろありましたが、イメージに残り易かったのは上記です。

検討→発表→意見いただく+ほかの発表を聞く→アイデアを出す(以下ループ)

当然と言えば当然ですが、学会は最新の知見をいただく場所であると同時にアイデアがよくでてくる時間です。

院内PHSとかにどんどん連絡がこないから?

イデアの優先度を決定し明日からまた臨床+研究(+改善)+教育。

最も学会の良い点はやる気を注入されることでしょうか?

番外①:第31回外傷学会

 明日から横浜で外傷学会ですね。

 

 Acute care surgeonとして?、外科系学会に加えて、

Acute care surgery学会、救急学会、外傷学会への発表や参加を可能な限り…。

 

 多発外傷についての私見を記していますが(忘備録の面が強いですが)、

今後は、頭頸部、顔面、四肢外傷の重症外傷(AIS≧3)が多発したときにACSとして

何を考えて何ができるのかといった領域の個人的考察も加えていこうと思います。

 

 少しでも新しい知見、アイデアを持って帰ろうと思います。