目指せ!Acute care surgeon

Acute care surgeryにまつわる私見を交えたお話(いつでもご意見/御指導コメントください)

番外③ Off-the job trainingの真の意義

 ある外傷手術Off the job trainingに向けて粛々と事前勉強をしていましたので最近更新が滞っていました。

 

 体幹部外傷を中心に診療を行うAcute care surgeonのためのOff the job trainingとしては、「ATOM」、「SSTT」、「DSTC」、「献体による外傷手術修練」などが代表的です。

 

 それぞれ異なった長所がありますが、いずれも背景に『外傷手術の減少とその特殊性』があり、戦略(手術 vs NOM、開胸first vs開腹firstなど)と戦術(DCSを含む術式選択など)をOff the job trainingで身につけていきます。

 

 特にそのなかでも自身にとって、

①選択困難例直面時に立ち返る汎用的ロジック

②国手・先人の医師たちが身をもって経験しているピットフォール

 の以上の2種類のパールを吸収することが何物にも代えがたいです。

 またもう一つ外せないのが、

③自分の戦略や技術をより経験がある医師+初対面の医師に披露・評価されること。

 (勝手知ったる関係でもなく、所謂お互いの慣れもない)

 単純な剥離・運針・結紮等でも良い緊張感があり、1日もしくは数日の外科研修では到底体験できないことも受講を受ける側は意識すべき利点だと考えます。もちろん実臨床時ほどの感情(叱咤など)はないですが。

 

 詳細公開は致しませんが、4つのコースをそれぞれ受講してからの感想です。

また今後も診療・教育・研究(+学会発表/出席+ブログ更新?)部門で精進します。

多発外傷⑬ 頸部損傷:ZoneIIが馴染み深い?

今回は頸部損傷について考えていきます。

(本当は肝損傷から脾損傷の流れなのですがすみません。)

いつもの事ですがOUTPUT+忘備録なので駄文はご容赦ください。

 

まずは有名なZone分類から

ZoneI 輪状軟骨~鎖骨

ZoneII 輪状軟骨~下顎角

ZoneIII  下顎角~頭蓋底

 

一般外科や消化器外科からするとZoneI~IIが比較的なじみ深く、ZoneIIIはなかなかなじみが薄い(場所としても困難を極める事が多い)印象です。

 

まずは気管切開などで前頸静脈や胸骨舌骨筋/肩甲舌骨筋の取り扱いの修練となるのでしょうか(最近はネオパークが多いですが…。)

 

例えば、食道癌手術における頸部リンパ節郭清(#101、104、106)や頸部領域での再建において、甲状腺・総頚動脈・内頸静脈・迷走神経・総顔面静脈、中下甲状腺血管、反回神経・筋群などを扱う機会はあります。甲状腺手術においても同様かと思います。特に反回神経の取り扱いや頸部食道損傷は基本的には左からアプローチすることなども比較的馴染み深いと思います(あくまで比較的ですが)。

 

しかしながら上述したようにZoneIII、例えば内/外内頚動脈をテーピングして舌下神経などをテーピングする待機手術はなかなか一般外科では修練するチャンスは少ないと考えます。

ZoneIにおきましても実際には頸部食道癌などは扱う機会もほとんどないので、胸骨正中切開を加えたりする術式は頻度が低いのではないかと思います。

(施設によっては喉頭咽頭がんの助手などで経験をつむ?)

 

気道確保と止血の話に戻ります。

 

気道確保:挿管⇒輪状甲状靭帯穿刺/切開

止血:圧迫(静脈であれば空気塞栓にも留意)、縫合止血、結紮、シャント、人工血管の使用、3-5FrFogatyカテーテルの使用、気道出血時の挿管チューブバルーン圧迫、TAEの選択など

 

修練としてよく出てくるのは、胸鎖乳突筋前縁にそって乳様突起~胸骨切痕までを切開し展開するNeck explorationです。詳細は著書にお願いしますが、やはり総顔面静脈が一つのゲートキーパーであることや頸動脈洞の取り扱いなどが気になるところです。また、余談ですが消化器外科や甲状腺外科の手術では超音波切開装置(ハーモニックなど)を使用しています。目的血管までの細かい血管処理には使用した方が早い場合もあるのでは?とふと思いました。

 

最後に比較的馴染み深いZoneII(I)と言っても、後方成分は馴染みは薄いです。椎骨動脈損傷におけるパッキングや鎖骨上アプローチから横隔神経を温存し、前斜角筋を切離して中枢の鎖骨下動脈を露出するというのはなかなか定期手術での獲得は困難ではないかと思います。

*鎖骨下静脈や鎖骨下動脈の遠位部は乳がん手術のLevelI-III郭清からの経験が少し生きてくるのではないかと思います。

 

救命のチャンスがある頸部刺創などにはACSとして上記のようなコンセプトで修練/準備を行うことが必要だと感じました(適切な専門医のコンサルトも当然ですが)。

 

【まとめ】

頸部外傷は気道確保と止血。

ZoneIIの前面側面以外は特別な意識をもって修練が必要

 *上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。お叱りなどあればいつでもコメントでご意見ください。

多発外傷⑫ 肝損傷 PHPとNOM

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得(ACSとして何ができるか?)

③頭部外傷(二次性脳損傷予防)

④四肢外傷(PTD+PTD、四肢コンパートメント)

⑤胸部外傷:胸腔ドレナージから開胸、蘇生的開胸適応(特に鈍的、10分?)

 

今回から腹部外傷について考えていきます。

腹部外傷では肝損傷が最も多いと報告されていますので肝損傷から考えていきます。

まずはPrimary surveyと蘇生の一環として、初期輸液療法に反応しないFAST陽性症例は蘇生的緊急開腹手術を行います。ただしpreCPA症例などでは開腹と同時にCPAへ移行する可能性もあり開胸による下行大動脈遮断・開腹による下行大動脈遮断・REOBAなどを同時もしくは先行させる必要があると思います。

 

すばやく血液を除去し(吸引だけ続けてもだめ)、5点パッキング+助手による用手的圧排。肝損傷の形態を把握、助手が肝下面を持ち上げ可能なら十二指腸を足側へ展開し肝十二指腸間膜の直線化を行いPringle法(20分遮断+5分解除)、肝前面にうつり肝鎌状間膜を切離しPHP(perihepatic packing)、他臓器のDCSの必要性を考慮します。

 

この時点で出血が持続する場合は不十分な(方向が間違っている)PHPもしくは所謂replaced/accesaryRHAなどの動脈亜型を考慮します。

 

Pringle解除による出血は動脈性出血を示唆しておりTAEが必要となります。但しPHP必要症例の時点で(緊急開腹の時点で)IVR室の確保が必須です。やはりここでもHybrid手術室の魅力を感じます(羨ましいという意味で)。

 

他、

✔肝切除などの根治術

✔胆汁ろう問題

などもありますが、今回はもう一つNOM(non-operative manegement)について考えてみます。もともとは脾損傷のnon surgical manegementがnon-operative management(NOM)というtermになったのかなと思います(確信はありませんが)。

 

実質臓器におけるStable症例のNOMは管腔臓器損傷の疑いがなければ選択肢に上がります。2003年のEASTのNOMガイドラインと2015年EmmanuelらのSystematic reviewを中心に多くの著書の記載を参考にさせてもらっています。

 

American Association for the surgery of trauma(AAST)分類III-Vでも、StableであればまずNOMを考慮するということですが、胆汁ろうや肝壊死、肝膿瘍などの少ない経験が頭をよぎります。また、腹部鈍的外傷において消化管損傷の診断が困難なケース(フリーエアなしの小腸損傷)などの経験も頭をよぎります。

 

NOMの中に含まれるTAEもACSが行うことがありますが、肝臓外へ漏れ出ていない肝臓内限局のExtravasation陽性症例(もしくはcontrast blush)に対してDSAのみにとどめるかTAEまでしっかりやるかも悩む症例があります。

 

不必要TAE回避か?輸血量や感染頻度の低下か?

 

NOM後のCTはルーチンか?とるとしたら何時間後がよいか?何日後が良いか?状態が安定していればエコーだけでよいか?

 

肝損傷だけではないですが深く考えると悩み多き領域の一つです。長くなったので今回は以上です。

 

【まとめ】

肝損傷においてPHP手技獲得とNOM適応の把握

 *上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。お叱りなどあればいつでもコメントでご意見ください。

 

多発外傷⑪-3 外傷CPAの開胸ジレンマ

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得(ACSとして何ができるか?)

③頭部外傷(二次性脳損傷予防)

④四肢外傷(PTD+PTD、四肢コンパートメント)

⑤胸部外傷:胸腔ドレナージから開胸、蘇生的開胸のこだわり

 

今回は開胸の適応、特にCPAOAの開胸についての適応を考えていきます。

(重症ショックのEDTの話ではないです)

 

やはり最も有名な基準はFeliciano et alのTraumaに記載されている基準でしょうか?

2012年のWestern trauma associationのアルゴリズムでもCPAに対するEDTについては

変わらず下記のように記載されています。

 

まず『目撃者ありき』です。

その症例のなかで

✔ 胸部鋭的外傷:院外CPR15分以内

✔ 胸部以外鋭的外傷:院外CPR5分以内

✔ 鈍的外傷:院外CPR10分以内

とされています。

 

交通外傷や墜落/転落外傷において、目撃者ありCPA患者様で

『接触時CPAで搬入まで20分かかります』と言われた場合、

絶対emergency department thoracotomy(EDT)は行うべきではないのでしょうか?

 

本当に上記基準を完全順守することが良いかは小生は判断しかねます。

しかしながらunnesessary EDTが横行することも避けなければなりません。

上記基準を熟知しておいて、その上で施設基準を決めておくべきです。

更にOn-the-Job trainningも含めての話はここでは触れません。

 

若年者であれば…、PEAであれば…、Vf/VTであれば…、かつ重症頭部外傷がなければ15-20分程度院外CPRが施行され、目の前に搬入された鈍的外傷CPA患者様をなんとか救命したいと渇望するのはナンセンスとまではいかないのでは?と思います(お叱りを覚悟で)。

 

考え続けていきます。

フランスの哲学者パスカルの有名な言葉を思い出します。

「人間は考える葦である」

 

【今回のまとめ】

わが国で多いとされる鈍的外傷CPAのEDTの適応は「基本的には」目撃者がありかつ院外CPR10分以内

 *上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。お叱りなどあればいつでもコメントでご意見ください。

 

 

多発外傷⑪-2 蘇生的開胸の小さな?こだわり

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得(ACSとして何ができるか?)

③頭部外傷(二次性脳損傷予防)

④四肢外傷(PTD+PTD、四肢コンパートメント)

⑤胸部外傷:胸腔ドレナージから開胸

 

今回も胸部外傷について、特に開胸について考えていきます。

開胸の種類はさまざまありますが、

外傷の戦術としては

・左前側方開胸

・クラムシェル開胸

・胸骨正中切開 

・他Trap door、前側方開胸+後方開胸

が代表的な開胸方法と多くの書籍で紹介されています(ex ATOM 2nd edition )。

蘇生的開胸とすれば第一選択は左前側方開胸です。

スピードと下行大動脈クランプおよび心臓へのアプローチを考えるとやはり左前側方開胸だと思います。

消毒⇒メス⇒皮膚+皮下脂肪⇒肋間筋⇒壁側胸膜で開胸、開胸創(胸膜)を広げるのはクーパーで行っています。開胸器をかけ、助手が肺を圧排し(必要あれば下肺靭帯を切離し)、下行大動脈をクランプ(必要あれば心マ)。

 

国手の先生方もよく言われますが広背筋まで(後まで)行き過ぎると出血多くなります。また内胸動脈からも出血します(あらかじめ結紮?あとで確認?)。

 

上縦隔アプローチ必要症例が少ないので最近はクラムシェルの状態で上縦隔を確認する事が多いです。無名静脈のアプローチくらいまでは個人的にはいけるかと思います。大動脈弓分岐まで含めた細かいアプローチは厳しいと思います。

 

左前側方開胸でも左横隔神経に留意しつつ心膜開放は可能だと思いますが、心損傷などがあればクラムシェルに切り替えていく必要があると思いますので、この時点で胸骨を胸骨ノコで切開する必要があります。準備の段階で実は充電されていない状況などは論外だと心しています。

 

胸骨が薄い症例で待ちきれない時はクーパーなどで切断する場合もありますが、決してBest Choiceではなく、外科医としては手術器具を大事に扱う事は修練開始後すぐおしえられますよね。つまりクーパーが使えなくなる可能性が高いということです(骨とかをきると。)

 

心嚢を開放しチャンスのある心損傷(右房損傷など)があれば、用手圧迫、縫合(プレジェットも含め)、バルーン、スキンステープラなどで修復していきます。縫合糸などは術者/施設などでいくつかあらかじめ決めていたほうが良いかと思います。

最近オプションの一つとして3-0の針の直径が長い針糸も導入しました。

4-0,5-0,6-0の針の直径が長いものも決めていきたいと思います。特にここは賛否両論が強いところだと思います。糸が細くなるにつれて直径が長い針の選択が少なくなってきます。

 

ACSとしてどこまでできるようになる必要があるか。

なかなか難しいです。

しかしながら、多くの既存専門医資格も、すべての領域疾患を100点満点にこなさないといけないような資格はそもそもないので、いい意味である程度のレベルで線引きをするべきと考えます。

 

【まとめ】

蘇生的開胸の細かい手順と施設でのこだわりをもつ。

 

*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。お叱りなどあればいつでもコメントでご意見ください。

多発外傷⑪-1 開胸を予想して胸腔ドレナージ

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得 (ACSとして何ができるか?)

③頭部外傷(二次性脳損傷予防)

④四肢外傷(PTD+PTD、四肢コンパートメント)

 

今回は胸部外傷です。

良く遭遇するのは肋骨骨折、肺挫傷・血胸、気胸でしょうか。

Surgical skillとしてはACS以外でも瞬時に可能な胸腔穿刺/ドレナージがまず必要です。

何故なら閉塞性ショックとしての『緊張性気胸』(+『心タンポナーデ』)があるからです。他内因性疾患にも範囲を広げると緊張性胸水/緊張性血胸/縦隔気腫なども閉塞性ショックの原因となりうると考えます。

 

すぐ閉塞する可能性があるから28Frもしくは32Frの胸腔ドレーンを使用。ただしそれでも閉塞する可能性を念頭に置く必要があります。

 

一旦脱気してさらに開胸や開腹などが継続して必要であれば固定は幅の広いテープにとどめて置き連続する評価、手技に移行してもよいと考えます。針糸による固定術は割愛(実際術者の好みがあり、数人に教わると細かいこだわりは異なるような気がしています)。

 

また胸腔ドレナージにおいてドレナージされるものは、空気と出血のみではありません。胸腔穿破型食道損傷、消化管穿孔+横隔膜損傷では消化液や食残がドレナージされてくる場合もあります。

 

胸腔ドレナージに話を戻します。ACSであればそのまま側方開胸やクラムシェル開胸まで想定しての手技を行うべきです。

preCPAで両側胸部外傷が疑われるときは左側方開胸と同時に右胸腔ドレーン⇒クラムシェルという流れでもよいかと思われます。左側方開胸から30秒以内に可能なのは、①開胸心マ②下行大動脈クランプ(左下肺靭帯切除必要となる症例も)③心タンポナーデの解除④圧迫止血であり、胸骨を横断してから右開胸まで連続させるのは30秒以内では困難かと思います。

最初からクラムシェルを想定してACSが2名以上いれば両側方開胸からの後の連続でもよいかと思います。

今回は本来なら胸腔ドレーンについてですが、開胸と強く結びついており緊張性気胸を疑わない症例で体幹部出血によるpreCPAであれば胸腔ドレナージよりもACS側方開胸の方がスピードや確実性において有効な場面があると考えます。

 

【まとめ】

胸部外傷:まずは胸腔ドレーン習得、開胸を意識しているか。

以上、次回に続きます。

*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。

 

多発外傷⑩ 四肢外傷:PTDからPTD

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得 (ACSとして何ができるか?)

ACSと頭部外傷(今後もっと考えます)

 

 今回は四肢外傷治療について考えていきます。

 

Primary surveyと蘇生の面からはやはり「止血」です。

切断肢・長管骨多発骨折や大きな主要血管からの出血にまずはACSは対応します。

しかしながら外傷診療はPreventable trauma death(PTD)に加えて、Preventable trauma disability(PTD)へ、つまり「救命」に加えて次に「機能障害の回避の重要性」が強調されています。

 

《primary survey / 蘇生》→止血

・圧迫、空気止血帯(病院前のDr carやヘリで使用することも)

・PTDを意識した多発外傷診療(迅速性、的確性)

 

止血以外でACSが意識することは、脂肪塞栓の可能性、Crush syndromeの可能性、コンパートメント症候群の判断です。

特にCrush syndromeは時には病院前診療での判断も求められ狭圧外傷→解除による再灌流障害→高K血症となり致死的となる。

 

またACSでは初療から外科的集中治療も行いますので、多発外傷症例において集中治療室での突然の呼吸循環不全は脂肪塞栓の可能性を、また腹部だけではなく四肢コンパートメント症候群の早期発見・コンサルティングは夜間休日においても重要です。

 

個人的には、

意識障害/鎮静下の四肢コンパートメント症候群をいかに対応するか?」

ACS単独の判断で筋膜切開をしたり、+NPWTを行ったりする頻度は低いので、

筋区画内圧測定を繰り返し行いつつコンサルトし方針を決定するのが現実的な対応ではないかと考えます。

 

【まとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得 (ACSとして何ができるか?)

ACSと頭部外傷

ACSと四肢外傷(PTD+PTD、四肢コンパートメント)

以上、次回に続きます。

*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。