多発外傷⑦ 負のスパイラルと『ダメコン』
【前回までのまとめ】
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得
⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要
⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。
『不確実な』出血の可能性を常に考慮。
さて今回も多発外傷患者にどう対応するべきか?を考えていきます。
Primary surveyにおけるABCDEアプローチが基盤をなし、「生理学的異常の認識」を適切迅速に行い、「蘇生」・「出血のコントロール」と行っていくのは繰り返し修練していく必要があるのはやはり大前提です。
「認識」⇒「蘇生」「コントロール」。
そして上記同様に重要であるのが、「負のスパイラルからの脱却」です。
低体温、代謝性アシドーシス、凝固異常:外傷死の三徴です。
今目の前にある出血性ショック症例において
・体温<35℃
・pH<7.2, BE<-15mmol/l(55歳未満), BE<-6mmol/l(55歳以上), 乳酸値>5mmol/l
・PT or APTT <正常の50%
が一つでもあればダメージコントロール戦略(damage control strategy: DCR)の適応を考慮するべきだと考えられています。
BEで使用される55歳という年齢は外科的予後予測ではあまり使用しない年齢値ですが、外傷スコアで最も汎用されるTriss Psにおける年齢のカットオフ値が55歳ですので、外傷を生業にしている者からすれば馴染み深い年齢カットオフです。
「外傷採血セット?」「多発外傷採血セット?」「重症外傷採血セット」は血液ガス、乳酸、凝固(もちろんフィブリノーゲン、FDP、Dダイマー、ATIII。加えてTAT、PIC?)も含めた構成にすべきです。
また重要なのは、上記は時間経過で何度も評価するべきで(FASTみたいに)、強調すべきは数値のみで判断すべきではなく視診/触診/手術中の所見で今目の前の患者様が負のスパイラルに陥っていないかを判断・共有することです。
DCR(damage control strategy)は
・Damage control surgery(蘇生的手術⇒集中治療管理⇒計画的再手術)
・Permissive hypotention(目的をもった輸液制限)
・Hemostatic resuscitation(血液成分補充+トラネキサム酸)
「Damage control 」、略して「ダメコン」などと言われる場合がありますが、総論である「Damage control strategy」の事なのか、各論である「Damage control surgery」なのか混同して使用していてわかりにくいときもありますので少しだけ注意です。(言いたいことは伝わってきますが)
ちなみにダメージコントロールは、物理的な攻撃・衝撃を受けた際に、そのダメージや被害を必要最小限に留める事後処置の事です。傷んだ髪の毛のケア、野球の負け試合で重要なセットアッパーにを使わないとか、企業における戦略の一つなど各方面で使用されていますが、発祥は戦艦におけるダメージコントロールとのことです(各学会や著書でもよくでてきます)。
でもこの中でAcute care surgeonとして理解・実践できるようにと気になるのはやはりDamage control surgeryですよね?簡単に言えば『手術は終了したが患者様も亡くなった』というよく使われる表現がありますが、そうならないようにという事です。
が、実際にその中の適応や各論は考えているよりも細かく簡単ではないです。
次回もDamage control resuscitation、特にDamage control surgeryについて続けていこうと思います。
【前回までのまとめ】
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得
⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要
⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。
『不確実な』出血の可能性を常に考慮。
外傷死の三徴の理解と認識、そしてDCR
*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。