目指せ!Acute care surgeon

Acute care surgeryにまつわる私見を交えたお話(いつでもご意見/御指導コメントください)

多発外傷⑧ DCS 『戦略の集合体』

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得

 ⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす

 ⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要 

 ⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。

       『不確実な』出血の可能性を常に考慮。

  外傷死の三徴の理解と認識、そしてDCR

 

最近、医学用語の略語が多くカンファレンスでもつらいときがありますが、『ACS』の略語の一番手がAcute care surgeryになるといいななどと考えていますが皆さんどうでしょうか?(打倒心臓?)

 

さて、今回はDamage control surgery(DCS)についてです。

前回からの話の流れをおさらいします。

外傷死の三徴があれば(1つでもあれば適応とする施設もあります)、Damage control resuscitation(Damage control surgery, Pemissive hypotension, Hemostatic resuscitaion)の一環である手術戦略としてのDamage control surgeryを適応します。

Damage control surgeryの概略は、初回手術で時間をかけず(60-90分程度)、出血と汚染のコントロールを第一目標とし、生理学的異常の破たんを食い止める手術のみを行い、一旦集中治療を行い、2回目以降の手術で根治的手術を行うことと理解しています。

いくつか例を挙げますと

重度肝損傷において解剖学的切除などは避け、ガーゼパッキング(±TAE)のみ

重度膵頭部十二指腸損傷においてPDは避け、切除もしくはドレナージのみ

腸管損傷において吻合は避け、ステープラによる切除のみ

骨盤骨折における後腹膜ガーゼパッキング

などがあります。

また他に

血管損傷時にその血管を結紮してよいか?

脾損傷時に特に若年者でなければ脾摘をした方が確実で早ければ脾摘を選択する時も。

肝損傷において小範囲で被膜のみつながっている状況などでは肝切除

などひとえにDamage control surgeryと言っても多彩で細かく各論があります。

加えて腹壁(胸壁)も手術時間短縮のためやAbdiminal compartment syndrome回避のために簡易閉腹やOpen Abdominal Management(OAM)を行うこともDamage control surgeryに含まれています。

 

Damage controrl surgeryはDC1、DC2、DC3と時間的経過で分類されます。

DC1:Abbribiated surgery(蘇生的手術)

DC2:Critical care(集中治療)

DC3:planned reoperation(計画的根治手術)

 

Acute care surgery領域においては非外傷性疾患におきましても、例えば状態の悪い大腸穿孔性腹膜炎に対するハルトマンや人工肛門のみ、NOMIに対して切除のみ(吻合なし)+OAMを行ったりしますので、外傷においても急性腹症においても戦略として通ずる時もあると考えます。

いずれにせよ、適応をよく理解し(微妙であり決断せざるを得ない時もありますが)、適切なAbbribiated surgery(DC1:蘇生的手術)を行い(逆に不適切なパッキングや動脈出血に対する不適切な対応、不必要なOAMなどを避ける)、集中治療を行い(DC2)、2回目以降の計画的根治手術(DC3)にもっていきます。特にガーゼパッキングなどの異物を用いた場合は一般的に72時間以内のDC3を行うべきとの意見もあります。

一方再建術は状態や術式によっては数週間後や数か月後に行われることもあります。

またDC2時期において判断しなければならないのが、持続する出血に対して輸血などを含めた非侵襲的集中治療のみで100%対応できない症例もあり、DC3ではなくDC2に2回目の緊急手術や追加TAEのタイミングを失うようなことがあってもなりません。

 

今回はDCSの総論・一部について考えてみました。

もちろん多発外傷のなかでもDCSの適応となる症例は少ないですが(非常に少ない?)、上記のようなコンセプトのないまま、「何をすればよいかわからず慌ててしまう」「時間だけがだらだら経過する」「誤った戦略を指摘する人が一人もいない」などの良くない流れになる事だけは避けたいですね。

【まとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得

 ⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす

 ⇒Breathing: 緊張性気胸疑いに「躊躇」は不要 

 ⇒Circulation:『準備』なくして対応はできない。

       『不確実な』出血の可能性を常に考慮。

  外傷死の三徴の理解と認識、そしてDCR

  DCSは適応・戦略・集中治療など時間的経過を含む戦略の集合体 

 *上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。