目指せ!Acute care surgeon

Acute care surgeryにまつわる私見を交えたお話(いつでもご意見/御指導コメントください)

多発外傷⑫ 肝損傷 PHPとNOM

【前回までのまとめ】

①Primary surveyの習得 

②蘇生の習得(ACSとして何ができるか?)

③頭部外傷(二次性脳損傷予防)

④四肢外傷(PTD+PTD、四肢コンパートメント)

⑤胸部外傷:胸腔ドレナージから開胸、蘇生的開胸適応(特に鈍的、10分?)

 

今回から腹部外傷について考えていきます。

腹部外傷では肝損傷が最も多いと報告されていますので肝損傷から考えていきます。

まずはPrimary surveyと蘇生の一環として、初期輸液療法に反応しないFAST陽性症例は蘇生的緊急開腹手術を行います。ただしpreCPA症例などでは開腹と同時にCPAへ移行する可能性もあり開胸による下行大動脈遮断・開腹による下行大動脈遮断・REOBAなどを同時もしくは先行させる必要があると思います。

 

すばやく血液を除去し(吸引だけ続けてもだめ)、5点パッキング+助手による用手的圧排。肝損傷の形態を把握、助手が肝下面を持ち上げ可能なら十二指腸を足側へ展開し肝十二指腸間膜の直線化を行いPringle法(20分遮断+5分解除)、肝前面にうつり肝鎌状間膜を切離しPHP(perihepatic packing)、他臓器のDCSの必要性を考慮します。

 

この時点で出血が持続する場合は不十分な(方向が間違っている)PHPもしくは所謂replaced/accesaryRHAなどの動脈亜型を考慮します。

 

Pringle解除による出血は動脈性出血を示唆しておりTAEが必要となります。但しPHP必要症例の時点で(緊急開腹の時点で)IVR室の確保が必須です。やはりここでもHybrid手術室の魅力を感じます(羨ましいという意味で)。

 

他、

✔肝切除などの根治術

✔胆汁ろう問題

などもありますが、今回はもう一つNOM(non-operative manegement)について考えてみます。もともとは脾損傷のnon surgical manegementがnon-operative management(NOM)というtermになったのかなと思います(確信はありませんが)。

 

実質臓器におけるStable症例のNOMは管腔臓器損傷の疑いがなければ選択肢に上がります。2003年のEASTのNOMガイドラインと2015年EmmanuelらのSystematic reviewを中心に多くの著書の記載を参考にさせてもらっています。

 

American Association for the surgery of trauma(AAST)分類III-Vでも、StableであればまずNOMを考慮するということですが、胆汁ろうや肝壊死、肝膿瘍などの少ない経験が頭をよぎります。また、腹部鈍的外傷において消化管損傷の診断が困難なケース(フリーエアなしの小腸損傷)などの経験も頭をよぎります。

 

NOMの中に含まれるTAEもACSが行うことがありますが、肝臓外へ漏れ出ていない肝臓内限局のExtravasation陽性症例(もしくはcontrast blush)に対してDSAのみにとどめるかTAEまでしっかりやるかも悩む症例があります。

 

不必要TAE回避か?輸血量や感染頻度の低下か?

 

NOM後のCTはルーチンか?とるとしたら何時間後がよいか?何日後が良いか?状態が安定していればエコーだけでよいか?

 

肝損傷だけではないですが深く考えると悩み多き領域の一つです。長くなったので今回は以上です。

 

【まとめ】

肝損傷においてPHP手技獲得とNOM適応の把握

 *上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。お叱りなどあればいつでもコメントでご意見ください。