多発外傷⑬ 頸部損傷:ZoneIIが馴染み深い?
今回は頸部損傷について考えていきます。
(本当は肝損傷から脾損傷の流れなのですがすみません。)
いつもの事ですがOUTPUT+忘備録なので駄文はご容赦ください。
まずは有名なZone分類から
ZoneI 輪状軟骨~鎖骨
ZoneII 輪状軟骨~下顎角
ZoneIII 下顎角~頭蓋底
一般外科や消化器外科からするとZoneI~IIが比較的なじみ深く、ZoneIIIはなかなかなじみが薄い(場所としても困難を極める事が多い)印象です。
まずは気管切開などで前頸静脈や胸骨舌骨筋/肩甲舌骨筋の取り扱いの修練となるのでしょうか(最近はネオパークが多いですが…。)
例えば、食道癌手術における頸部リンパ節郭清(#101、104、106)や頸部領域での再建において、甲状腺・総頚動脈・内頸静脈・迷走神経・総顔面静脈、中下甲状腺血管、反回神経・筋群などを扱う機会はあります。甲状腺手術においても同様かと思います。特に反回神経の取り扱いや頸部食道損傷は基本的には左からアプローチすることなども比較的馴染み深いと思います(あくまで比較的ですが)。
しかしながら上述したようにZoneIII、例えば内/外内頚動脈をテーピングして舌下神経などをテーピングする待機手術はなかなか一般外科では修練するチャンスは少ないと考えます。
ZoneIにおきましても実際には頸部食道癌などは扱う機会もほとんどないので、胸骨正中切開を加えたりする術式は頻度が低いのではないかと思います。
気道確保と止血の話に戻ります。
気道確保:挿管⇒輪状甲状靭帯穿刺/切開
止血:圧迫(静脈であれば空気塞栓にも留意)、縫合止血、結紮、シャント、人工血管の使用、3-5FrFogatyカテーテルの使用、気道出血時の挿管チューブバルーン圧迫、TAEの選択など
修練としてよく出てくるのは、胸鎖乳突筋前縁にそって乳様突起~胸骨切痕までを切開し展開するNeck explorationです。詳細は著書にお願いしますが、やはり総顔面静脈が一つのゲートキーパーであることや頸動脈洞の取り扱いなどが気になるところです。また、余談ですが消化器外科や甲状腺外科の手術では超音波切開装置(ハーモニックなど)を使用しています。目的血管までの細かい血管処理には使用した方が早い場合もあるのでは?とふと思いました。
最後に比較的馴染み深いZoneII(I)と言っても、後方成分は馴染みは薄いです。椎骨動脈損傷におけるパッキングや鎖骨上アプローチから横隔神経を温存し、前斜角筋を切離して中枢の鎖骨下動脈を露出するというのはなかなか定期手術での獲得は困難ではないかと思います。
*鎖骨下静脈や鎖骨下動脈の遠位部は乳がん手術のLevelI-III郭清からの経験が少し生きてくるのではないかと思います。
救命のチャンスがある頸部刺創などにはACSとして上記のようなコンセプトで修練/準備を行うことが必要だと感じました(適切な専門医のコンサルトも当然ですが)。
【まとめ】
頸部外傷は気道確保と止血。
ZoneIIの前面側面以外は特別な意識をもって修練が必要
*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。お叱りなどあればいつでもコメントでご意見ください。