多発外傷③ Airwayと『焦り』
多発外傷へのアプローチを理解するには「道のりは遠いですが」
①Primary surveyの習得 ②蘇生の習得 がまずは必要ではないか
という話をさせていただきました。
今回はABCDEアプローチのなかの『A: Air way』のアプローチです。
「気道確保ができるか?」
適応の詳細はJATEC、JETECなどのガイドラインを参照していだくとして
用手的気道確保⇒エアウェイ、バックバルブマスク⇒経口気管挿管のトライ
ここまでは通常の流れですが…。
目の前に多発外傷、特に高度頭部・顔面・胸部…外傷で口腔内が血液充満、下顎骨損傷が著しい、もともと挿管困難症例など。
経口気管内挿管を2度、3度行っても成功しない。
『焦り』が出てくる(人もいる)。
ここでは視点を変えて『焦り』について考えてみます。「焦りは禁物」という有名な言葉もあるように『焦り』は失敗につながる事が多くよいものではありません。
気道緊急時の『焦り』は、時間的制約(タイムプレッシャー)が一番関わっていると思いますが、はたして他の因子はないのでしょうか?
実際には気管挿管で大切なことはJATECをはじめ多くの著書に記載されています。実は忘れがちとなっていることは
1)一回の経口気管挿管手技は原則30秒以内とする
2)チーム内で最も熟練した医師でも2回挿管困難であれば外科的気道確保
つまり見えないタイムプレッシャーではなく定義されたタイムプレッシャーである事、外科的気道確保の適応を理解する事が重要という事です。
「外科的気道確保」。
一生懸命知識をつけて、Off-the-job trainning(人形などで訓練)したはずの「外科的気道確保」。おぼろげな合併症の知識を振りかざして、不安を隠して、外科的気道確保の閾値が上がっていませんか?
外科医、Acute care surgeon(もしくは目指している医師)にとっては、輪状甲状靭帯切開/穿刺とは、獲得しなければならないものです。しかし多くの症例で外科的気道確保手技の難易度は低く、虫垂切除などと比べても明確です。
よって、タイムプレッシャーに加えて外科的気道確保の適応/手技に不安があることも『焦り』を生み出しているのではないかと考えます。繰り返しますが、外科的気道確保は適応と合併症の理解基盤があれば易しい手技であることであると思います。他の例を挙げますと胸腔ドレーン挿入と大差はないです。
最後に「不安」の対象は見えない(おぼろげな)ものが対象であると定義されています。気道緊急におけるタイムプレッシャーはぬぐえないので、もう一つの「不安」を除去する事が『焦り』から少しでも脱却する方法であると考えます。「気道確保に対する不安」を取り除くためには、外科的気道確保を技術的に困難でとんでもない事だという根拠のない考えを捨てることも重要です。
それでも外科的気道確保を避けたい/できない人は、それが自分より若い医師であっても施行してもらい、《チームコーディネート力》や《トータルマネージメント力》に重点を置いて修練すべきなのかもしれません。
当然Aute care srugeonにはどれもこれも必要です。
【まとめ】
①Primary surveyの習得
②蘇生の習得⇒Air wayと『焦り』のメカニズムを理解し、「不安」を減らす
次回に続きます。
*上記は適切な診療を保証するものではございません。あくまで私見が混じっていますのでご了承ください。